ゆりかごから墓場まで

揺りかごで生まれたタカシ君は授乳され、
ハイハイおしゃぶり指チュッチュの後に第一声を発した。


「マサゲ」


これはお隣の横山勝(まさる)さん57歳がよく遊びに来ては
両親がまさるさんまさるさんと言っていたからで、
タカシ君は近所の田坂幼稚園に通い始める。


き組、あか組、みどり組と進級して公立の吉屋小学校だ。
勉強はそれなりに出来る方で、中学はその近くの吉屋中学校だ。
部活は将棋部、に見学に行ったが雰囲気が華やかでなく気に入らず、
女性比率の高い吹奏楽部に所属したが特に惚れたはれたはなかった。


高校で初めての煙草を吸う。
彼は進学校へと進んだ。帰宅部で真面目に勉強をし、
関東の某国立大学へと進み吹奏楽部だ。
3年のブランクがある。
彼は小さい楽器を吹いていた。
ちなみにブランクのある人間は比較的多い。
大学のレベルもそこそこ高く、高校時帰宅部の人間もそれなりにいたからだ。


そういえば、吹奏楽部の強さと偏差値は特に関係ないようだ。
彼は気付く。実績によるのだと。あるいは指導者(指揮者)の手腕だと。
そして彼が入ったばかりの時低迷していた部は1年後、
ある人物の手により奇跡的な躍動、ということは全くなく、
そこそこのレベルで止まる。
練習量だけは格段に増えた彼は不満を抱えたまま時間を過ごすと、
大手製造業に内定が決まった。


就活時に出会った女と付き合うことになり、
県都をまたぐ交際が始まって1年と半年、結婚をするが
お互い簡素志向というか、ジミ婚で1年後に子供(まじめだね)、
それは人間ではなく狼の顔をしていたが20年後、それは気のせいだった。


課長にはなったが子会社に出向。
よくある「〜(親会社の名前)システム」というところ。
そのころ子は大学へと進学。
しかも学生結婚をする。
すぐに子供もでき、孫の顔を見るのが早すぎたが、
どうみても狼にしか見えない。
狼、孫などではなく完全な狼が自分を食い殺し、
出血多量で完全な死亡を遂げ、火葬。


という夢をタカシ君は将棋部の大会で隣の県庁所在地に行った時に見た。
確かに、華やかな吹奏楽部にすればよかった気がする。
まだ1年の終わりだから、部活変更できないこともない。
前例もあるし。


という夢をようやく課長になれた日に中学生で将棋部所属の息子、
目を合わさない、会話をしない息子、不登校の息子から旧に後から刺され、
見た夢は物覚えの始まりに見た、自分が揺りかごのなかに収納された自分の顔が、
狼の顔をしていて近付いた祖父を噛み殺すという恐ろしいものだった。


などと妄想しつつ、末期癌で最期は自宅という最近の気の利いた医療サービス、
孫も成人になり、いよいよ意識も遠のく。
自分が骨になり、あの狭い容器に収納される。
完全に閉じこめられてしまう。
あ、燃やされる時はあの小さい楽器も一緒に入れてもらおう。
天国で奏でよう。